記憶喪失。

そんな状態の彼女に、お見舞いなんていらなかった。

そもそも、俺のことを覚えていない。

もちろん、斗真のことも。

思い出話をするにしたって、覚えてないんだから

千里を混乱させるだけだ。

でも、それ以外に話すことなんてなかった。

少しずつ、千里に会う回数が減っていった。

蝉の声が聞こえる頃になっても彼女は学校に来ない。

蝉の声が消え始めても彼女とは会わなかった。