気付けば二人で、砂浜に腰を下ろしていた。


かけてくれたコートが嘘みたいにあたたかくて、この人も寒いのに悪いな、なんて考えていた。



「海は好き?」




どうしてこう突拍子もないことばかり言うんだろう、と少し眉間に皺が寄る。

この状況で聞くこと?




「考えたこともなかった。
ただ、し」

言いかけて遮られた言葉。



「死にたい理由は聞かないけど、気が変わればな、とは思ってる」




さみぃ、と小さく呟いて勢いよく立ち上がった。


あたしはつられて立ち上がることもせず、ただ海を見つめていた。

波は穏やかで、不思議な懐かしい感覚に心地よくなる。




「俺さ、夢を見るんだ。
よく見る夢でいつも同じ。」


あたしを見るわけでもなく、真っ直ぐと海を見つめてそう言った。


「その夢に出てくる女の子がいるんだけど、その子が...」





ほんの一瞬、強く風が吹いた。
とても冷たい風。






「君にすごく似てるんだ」










今度はあたしを見つめて笑った。



どうしてこんなに、苦しくて切なくて懐かしい気持ちになるの。


その笑顔も、声も、
本当は知っていた?


そんなはずないのに、勘違いしてしまいそうになる。




「助けたい。とゆーか、死なせたくないし、君を死なせるわけにいかない気がして。」



「あたしを...?」



「そう。
死ぬつもりだったんなら、君のこと俺にあずけてよ。」








何て馬鹿げた話だと普通なら思うかもしれない。

あたしが死ぬつもりだったのもあるけれど、どうでもよかったからではない。

この人の言うことを、受け入れてしまうのは、やっぱり何かの関係があったからなのか?

わからない...

それなのにあたしは、



「いいよ...」





真っ直ぐに見つめてそう返していた。