女中の視線から逃れるように、私は縁側のそばに立てかけられている笹を見やった。


「短冊がやけに増えたのね」

「はい、今朝またたくさんの願いが届いております」


にっこり微笑む女中とは裏腹に、私の心はさめざめとしていた。

私はそんな笹に近づき、短冊をいくつか読みふける。


“頭が良くなりますように!”


……えらく抽象的な願い事ね。もっとしっかり勉強なさい。


“おえかきがうまくなりますように”


鍛錬が必要よ。頑張りなさい。


“隣のクラスのRくんに告白できますように”


そんなもの、短冊に願ってる暇があるなら、ちゃんと面と向かって言えばいいのよ。

あなたが願いを託した相手は、想い人に顔を合わせることすら、自分の意志では叶わないというのに。


「みんな勝手だわ。自分の願いばかり人に任せようだなんて」

「いいではないですか。中には自分で叶える事も難しいからこそ、短冊に願いを託すのですよ」

「そんなもの託されたところで、私には叶えるほどの力はないわ」

「叶うかどうかはわからなくても、それでも人は願いたいのですよ」


……勝手なものね。

そう思った言葉は、口にはださないでおいた。


だってその気持ちだけは、よく分かるもの。