七月七日の、二日前。


「濃霧……」


私が川のそばにある縁側に向かうと、部屋の中がすでにうっすらとベールを纏ったように、霧に覆われていた。昨夜部屋の扉を閉めなかったのだろう。そのせいで霧は部屋の中にまで広がっていたようだ。


「これでは、せっかくの天の川もよく見えないわね」


弱々しく光る星貝の光が、そこに川があることを教えてくれている。けれど、その光がなければ、外は分厚い霧の壁に覆われて何も見えない。


今年の七夕は大丈夫かしら? なんて、毎年思っていたけれど、いつしか期待もしなくなった。


今年の七夕には会えるかしら? と思っていた気持ちは、いつしか今年の七夕も会えないのではないかしら? に変わっている。


もう何年もお会いしていない彦星さま。前回お会いしたのはいつだったかしら。もう顔も忘れてしまったわ。


「織姫さま、こちらにいらしたのですか」


女中は足早に私の元へとやって来ては、いつものつんとした表情でこう言った。


「新しいお召し物は完成されましたか?」

「心配しなくとも、ちゃんと明日には完成するわ」


いつもは人の為に織る服達。けれど毎年この時期は自分の為に一着織っている。

けれど彦星さまに会える事を願いながら織った服は、すべて私の願いを全うする事もなく、箪笥にしまうことになる。


今年もきっとそうなるだろう、なんて思いながら私は機を織っていた。