「どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


カンファ室の扉を開けてくれた高野に御礼を言って、こっそり口元のタレを手で拭いながら私は近くにあった椅子に座る。


ガチャと扉を閉められると密室に二人きりだ。
……二年振りの、高野先生。


私の斜め前にある椅子に腰掛けて高野も私に視線を合わせた。涼しげな薄い色のスクラブの上に、きちんとアイロンが掛けられた清潔な白衣。
首には聴診器がかかっていて、これぞ循環器内科医という出で立ちだ。
短めの髪も少し冷たそうに見える顔立ちも、高潔な印象を与える。


それに比べて私はどうだ。
当直明けでボサボサの、肩までで乱雑に整えられた髪の毛は、しばらく染めてないため中途半端な茶髪だった。
かろうじてファンデは塗っているが、口紅も塗ってないため顔色は悪く見えるだろう。青いスクラブだって昨日と一緒でこのまま寝たため、もしかしたら汗臭いかもしれない。


なにも、こんな日に会わなくたって良かったんじゃ無いか。


「……いきなり呼び立てて申し訳ない、なにぶん時間が無くて」


「いえ、大丈夫です。循内でしたら土日も無いでしょうし…むしろ、お時間取って頂いてすみません」


ぺこ、と頭を下げて、少しだけはにかんだ。