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なにが悪かったのだろう。
夕飯の準備をしながら、私はまだ、朝の高野の表情の意味を考えていた。
喜んでくれると思った。
ありがとうと、昨日のように言ってくれると、そう思っていた。
けれど高野はなんとなく浮かないような、戸惑うようなそんな表情で。
ーーもしかしたら何の意味もない表情だったのかもしれない。
別に気にしなければいいのに。日曜日をこんな無意味な悩みで潰してしまうなんてどうかしている、と思いながらため息をひとつ吐く。
“帰って来るけれど、夕飯は要らない”
その意味深な言葉にもモヤモヤしながら、かろうじて二人分になり得てしまう量の夕食を作っている自分にもモヤモヤする。
「あ、余ったら明日の朝に私が食べようと思って作ってるだけであって!
別に高野先生も食べるかなーって思って作ってる訳じゃないんだからっ!」
って、どこのツンデレだよ私。という突っ込みも含めて一人芝居をしていた時、ガチャリと玄関のドアの鍵が開く音が聞こえた。
パッと顔を上げて、リビングのドアが開くのを待って、ーーあまりの忠犬っぷりに自分で瞬時に恥ずかしくなって顔を下に向けた。
「……ただいま」
入ってきたその姿を、まるで気にしていないように振る舞うためだけに、つんっと横目だけで捉えて。
「お帰りなさい、高野先生。お疲れ様です」
一日中、高野の言動の意味を考えてたなんて全くわからないように、他人行儀に声を掛けた。



