朝。
高野が何時に起きるか分からなかったが、とりあえず6時半に目覚ましのアラーム音で目を覚ます。

そろりと自分の部屋から顔を出すと、高野はまだ起きていないようだった。

昨日の夜セットしておいた炊飯器を開けて、ご飯が炊けていることを確認し、冷蔵庫から何個か卵を出す。

目指すはビジネスホテルの定番朝食である。
昨日の夕飯はすこし張り切り過ぎて空回りしてしまった気がするので、あくまに無難を目指して卵を溶いでいく。

卵焼きと、ナスとネギのお味噌汁を作って、さいごに納豆と海苔を出すと、THE無難な朝食の完成だ。
ちなみに浅はかな私は、そこら辺にあったチラシで味噌汁の湯気を高野の寝室に向かってパタパタしておく。

朝食の良い匂いで目を覚ますのです……。
これで貴方も妻の良さを実感するのです……。

高野の脳内に語りかけながら、その扉が開くのを待つ。

ふと時計を見ると、7時前。
日曜日なのにこんな早い時間に起きるだなんて、私にとってはアリエナイことである。
健気な自分に涙が出そうだ。

数分後、ガチャ、と音がして部屋から出てきた高野と目が合う。

ちなみに私は未だしっかり味噌汁を扇いでいる途中であった。

「……きみ、まさか朝作ったのか?」

開口一番、朝の挨拶より先に驚いたように言う高野に私は少しだけ胸を張る。

「妻なので、これくらいは!」

言うと、しばらくの沈黙の後、高野は少しだけ眉をひそめた。
それに気づいて、私は息を呑む。

「……すまない」

ありがとう、ではなく。高野は微妙な顔をしながらたぶん、朝食を作ってくれたことに、謝った。

「いえ……、いいんです、これくらい」

眉をひそめた意味に思い至らず、私は曖昧に微笑んだ。