「「いただきます」」

作ったシチューをテーブルに並べて、向かい合わせに腰掛け、一緒に食べる。

食べながら会話をする時間が、わたしの至福の時間だ。

「今日は、1日おうちにいたんですか?」

「…うぅん。仕事で少し出掛けてたよ。夕方くらいに帰ってきたけどね。」

「仕事…ですか。」

「…うん。まぁ、大したことじゃないけど。」

苦笑いして言葉を濁すクロさん。

きっと触れられたくない内容なのだろう。

聞いちゃいけなかったかも…

「大変ですね…。あっ、そーいえばこのへんに美味しいパン屋さん出来たらしいんです!今度買ってきますね。」

「…聞かないの?仕事のこととか。」

「えっと…気にならないかーって言えば嘘になりますけど…でも、話したくないことは、無理に話す必要無いと思います。人に言いたくないこと、みんなひとつやふたつあると思いますし。」

そう言えばクロさんは嬉しそうに笑って。


「ありがとう。…パン、楽しみだな。クロワッサンあるかな?好きなんだ。僕。」

「ふふ、美味しいですよね。クロワッサン!了解しました!」

クロさんは、謎だらけ。知らないことばっかり。

…だけど、そこに触れようとするとすごく悲しそうな顔をするから。

このままの関係を壊したくないし。

恋人でもなく、友達でもなく、同居人としての関係。

だから、深くは聞かず、触れずにいたい。

わたしにだって、話したくないことはあるから。