溶けろよ、心




空が夕焼け色に染まり始めた頃。


イベント会場の出口の前には、Answerファンがごった返していた。

メンバーが出てくるのを心待ちにして、わいわい騒いでいる。


こ、こんなに人が多いんじゃ、晴斗に気づいてもらえないよ……。


「橘、こっち行こ」

町田くんは私の手首を掴んで、出口から一番遠い道路沿いまで引っ張った。


ファンは皆出口側に詰めるので、確かにこっち側の方がスペースは広い。


「これじゃあ、志賀と話すのは無理そうだな」

町田くんが珍しくネガティブに呟いた。

「まだわからないよ。ファンサービスのフリして話してくれるかも」


せっかく町田くんがここまでしてくれたのに、諦めたくはなかった。

「いつにも増して前向きだね、橘」


町田くんがそう言って微笑んだ時、すぐ傍の道路に大きめのワゴン車が止まった。

黒いフィルターのようなものが窓に貼られていて、中が見えない仕様になっている。


これ芸能人が乗る車だ……。

それはつまり、Answerが乗る車。


もうすぐ会場から晴斗が出てくるんだ。

心臓が飛び出そうなほど、胸が鳴る。