「そっちが浴衣だからって、なんなのよ?」 かわいいの一つも言ってくれないことにムカついてもくるのに、 「なんだって、なんだよ? 俺だって、浴衣着てきただろうが」 向こうも怒ったように言ってきて、 「……何よ」 と、だんだん悔しくもなってくる。 「……浴衣、どんな思いで着てきたと思って……」 ふいに涙が出てきそうにもなって、うつむいて目を逸らすと、 黙ったままでつっ立っている足元が目に入って、よけいに泣きそうにもなって、 「……もう、やっぱり帰る」 背中を向けようとした。