「エレアノーラ様!」

「ガストン様、本日はお招き頂き感謝申し上げます」

 外国との太いパイプを持っているベアール家の夜会は比較的ライトである。

 面倒な挨拶は要らないし、何を身に付けても文句は言われない。あらゆる文化を受け入れる態勢が整っているのだ。それゆえ次期当主が自由に動き回ろうが、咎める者はいない。

「私とエレアノーラ様の仲ではありませんか。
 どうです? 私の部屋で一杯。珍しいワインをご用意してあります」

「まぁ、それは嬉しいわ」

「失礼ながら申し上げます。以前からお伝えしてあるように、お嬢様は酒に弱いのです。
 何かあってから旦那様の御不興を買うのはベアール様かと。ですから……」

「口を開くのを許した覚えはないぞ。護衛」

「ガストン様、申し訳ありません。うちの者が失礼を」

「いいんだ。この者はエレアノーラ様の優しさに付け込んでいるだけなんだから。
 高貴な者には高貴な者しか触れられないんだよ。分かったら自分の役目に精を出すんだな。護衛係」

「フィン」

 目で謝罪を促す。溜息を呑み込んだのが分かったが、私は見て見ぬふりをした。

「……失礼致しました」