「レイニー様。ベルナールから此方を預かって参りました」

「ベルナールから? 私に何の用かしら」

 ヴィンセント様との出会いは既に仕込んである。ベアール家の夜会に紛れ込むと言っているのだから、よっぽどスリルを味わうことが好きらしい。

 私はといえば、しっかり招待状を貰っている。骨抜き済みなので、熱いラブレター付きでだ。

 将来のベアール家当主がこんなに馬鹿でいいのかと不安になってくるが、私の知ったことではない。

 昨夜、酒場へ顔を出していたフィンが、起き掛けの紅茶と共に封筒を差し出す。

 彼に手渡されたのは、一見なんの変哲もない白の封書。

 宛名はなく、左の隅に小さく〝フェアレディへ〟と綴られているだけだ。封蝋は漆黒で、見たことの無いデザインだった。