「……不審には思われなかったのですか?」

「何故アイツが此処までするか、か?」

「はい。私にはやはりそこが疑問でならないのです。彼女の父親は〝悪の貴族〟我々に〝良い貌〟をしているに過ぎないかもしれません」

「成る程。だがな、それならもっと上手くやると思うんだ。ヴェーン侯爵は話術に長けた人だよ? あんな利己的な主張を彼が許すとは思えないな」

「ですが、それも罠の可能性が……」

「だとしたら俺達に見る目が無かっただけの話だ」

「レジスタンスのメンバーは、そんな風には思わないでしょう。もしも侯爵様の掌で踊らされていたら、どうされるおつもりなのですか?」

「そこはベルの采配次第だろ。俺なら逆に手玉に取ってやるけどな」

「ベルナールにそんなことが出来るとは思えません」

「同意だな。アイツは頭がキレるわけじゃない」

 ヴィンス様は寝台から降り立つと、カウチに投げていたヴァイオリンを手に取る。軽やかな音色を奏で始めた為、口を閉ざしていれば「歌え」と言われた。

 彼の言う「歌え」は口を開く事への許可である。