「フィン、ちょっと」

 一息吐いたあたりで名を呼ばれた。喧騒に掻き消えてしまいそうなほどのユアンの声は静かで、抑揚など孕んではいない。

「ああ。いいのか? 王子を一人にして」

「僕は君に訊いた方がいいのかな? エレアノーラ様を一人にしない方がいいのか? って」

「すぐに駆け付けることくらいできる」

「僕も一緒さ。とは言ってもカウンターに移動するくらいだ。二人の姿は確認できる」

「ああ」

 言葉少なに告げた彼がカウンターからウィスキーを取り出す。透けたグラスに琥珀が揺れ、氷が涼し気な音を立てた。