「悪しき貴族の令嬢様が本当に悪役になると? 二つ名は悪しき令嬢かな?」

「なんと言われようと構わない。悪しき令嬢? その名前、謹んで頂戴するわ」

 彼女は高らかに宣言する。淡く輝く蒼の瞳は、真っ直ぐに王子を見据えていた。まるで自らの熱い想いを伝えるように。

「君、面白いね」

「面白い女性はお好き?」

「ああ。面白いことが第一条件だ」

「私も。楽しい殿方が好きなの。社交界のお遊びも飽きてしまったし、ヴィンセント様もそうじゃなぁい?」

「君になら騙されてみるのも面白いかもしれないな。エレアノーラ」

「まぁ、騙すだなんて人聞きの悪い。私の傀儡になってくださる? ヴィンセント様」

「傀儡、ねぇ。君にはもういるんじゃないかな。優秀な犬が」

「犬には別の仕事があるの。私が今欲しいのは貴方のような力を持つ殿方よ」

「ヒステリックを起こさないのはポイントが高いな。俺は知的な女性が好きでね。君の化けの皮を剥がすゲームも面白いかもしれない」

 言葉を紡ぎながら彼は椅子から立ち上がる。レイニー様を見下ろしたかと思えば、無礼にも頬に手を添えた。