「少し歩きます。辛抱を」

「分かっているわ」

 彼のエスコートに身を任せながら暗い路地裏を歩む。

 距離は測れないし道順もよく分からなかったが、灯りを象った店を見つけたことで酒場に着いたのだと知った。

「レイニー様」

「どうかしたの?」

「この中にはアンタに無礼なことを言う輩もいると思う。俺が守る。だから負けないでください」

「フィン」

「はい」

「誰に言ってるのかしら? 私は社交界に名を馳せる悪女〝エレアノーラ〟よ?」

「悪名で胸を張らないでくださいよ。まったくアンタは……」

 彼は躊躇いを含みながら重そうな木造りの扉を開け放つ。目で促された為、先に足を踏み入れると眩い光景が広がった。