「国の為に悪女を演じる陰の立役者じゃないですか」

「ふふ、そうなれればいいのだけれど。現状じゃ難しいわ。今迄は馬鹿な男しか相手にしてこなかったもの。話を聞いた限りじゃ気難しそうだし、私に彼と渡り合える頭脳があるかどうか……」

「何かあった際には微力ながらお力添えを」

「勿論よ。お前は私の僕でしょう?」

「アンタの仰せのままに」

「少しつまらないわ」

「何がです」

「喧嘩がなくなったのが」

「俺からすれば不思議で仕方ないですけどね。13歳のある日から変わったアンタが……あぁ、いいですよ。何も言わなくて。アンタはアンタですから」

「失礼な男」

 無駄話をしていれば目的地に着いたことを馬の鳴き声で知った。

 日は既に落ちており、半月が煌々と輝いている。暗い路地にはガス灯が一つあるだけで、足元は真っ暗だ。「お気を付けて」というフィンに頷きながら、私は馬車を慎重に降りた。