「うまくいくかしら……」

 町娘のような質素な衣服ではないが、いつもの私なら有り得ないだろう地味な装いで馬車に乗り込む。夕陽はやたら眩しくて、仄暗い計画を咎めているような気がした。

「らしくないですね。アンタが弱気だなんて」

「弱気にもなるわ。私は無知だもの。どうやっても民には寄り添えない。受け入れて貰えるかどうか……」

「アンタは無知じゃありません。レイニー様は人に寄り添うことを覚えた。努力をしました。俺はずっと見てきたんです。この三年は無駄にならない。無駄にはさせません。
 例え王子を引き込めなくても、アンタには貴族側との繋がりを保って貰わなければならない。此方側に必要な人間ですよ。なんならまた誓いの口づけでもしましょうか?」

「お前は変わらないわね」

「レイニー様は変わりましたよ。とても美しくなられました」

「知ってるわ」

「そういうところは、お変わりありませんが」

「それも知ってる」

 柔らかい雰囲気が私達を包み込む。私は〝謙虚〟さを覚え、彼は私を丁重に扱うようになった。

 相変わらず〝アンタ〟と呼ぶけれど、棘が抜けて丸くなった。顔立ちは精悍になったものの髪型は変わらないし、翠眼も変わらない。宝石の如く輝くエメラルドは私を真っ直ぐに射貫くのだ。