俺はその後、数年に渡って各国を飛び回り、機密情報を国へ持ち帰る任務をしていた。

 レジフォルニアが政での勢力を拡大していく最中、俺は〝マリー〟と出会う。彼女も、また色のない少女だった。

 娼館は度々、スパイの情報交換場所として利用される。彼女は、そこへ娼婦として送り込まれ、俺はそれを繋ぐパイプ役をしていた。

 男と肌を重ねる様を幾度も見てきた。淫らに誘う様も、男の肩越しで冷徹な表情を象る様も、俺は全てを知っている。
 それでも何色にも染まらない彼女は、ガラス細工のようで不思議だった。

 そして、ある日俺は気付く。その清澄さに心奪われていたことに。けれども、伝えるつもりは無かった。

 いつ死ぬかも分からない相手を好いていられるほど、俺は強くなかったのだ。

 なのに、彼女は不安げな瞳で俺にこう言った。

「私のこと汚いって思ってますよね?」