分かっていた筈だった。分かっているつもりだった。



 ――それでも向き合うことは出来なかった。



 俺は今でも悔恨を抱えている。仮面をいくつ捨て置いても、心までは捨てきれない。

 しつこく染みついているのは〝恋心〟。洗い流そうにも、その術が分からない。いっそ記憶など消してしまえればいいのに。

 顔を顰めて、そんな風に苦しむほど、俺は今でも彼女の〝名前〟に縛られている。

 笑顔でも、歌声でも、亡霊でもない。たった一つ。俺達の間でしか通じない〝名前〟。本名を知らない俺達の恋は、呼び名だけで繋がっていた。

 もう君の声も思い出せないというのに。

「そう思ってたんだけどなぁ……」