「今日は、このまま帰ろうと思っています」

「どうして……」

「お体の具合が優れないようなので。無理矢理、連れ出して申し訳ありません。

 いつもレイニー様に連れられてばかりいたので、加減が分からず失礼致しました」

「どこに主人を連れ出す護衛がいるのよ」

「……返す言葉もございません」

「冗談よ。笑いなさい」

「ははっ」

「不細工な笑顔に、乾いた笑い声。最悪ね。愛想笑いの一つも出来ないのかしら」

「申し訳ありません」

「そういえばお前の笑った顔は見たことが無かったわね……」

「今なにを?」

「お黙りなさい。気分が悪いわ」

「あそこは治安が悪いところなんです」

「え?」

「ただの一人言です。レイニー様は休んでらしてください」

「随分と大きな一人言ね」

 鼻で笑うも、彼は申し訳なさそうな表情を崩すことなく言葉を紡いだ。