「やるねぇ。王子のクセに」

「剣の研ぎ忘れがないようで安心したよ」

 風を切る音が静寂に響く。ぶつかり合った切っ先が離れ、再び磁石のように吸い寄せられる。

 怪しい笑みを浮かべるお父様と打って変わって、ヴィンスの表情は苦し気だった。

「やめて……」

「レイニー様?」

「ユアン! やめさせて! ヴィンスは怪我してるんでしょう!? そんな腕でお父様に勝てるわけがないわ!」

「怪我してんの? 王子様ぁ?」

「気の所為じゃないかな?」

「あらあら、ほんと。血が滲んじゃって」

「お願いよ、ユアン! 貴方しかいないわ!」

 私と視線を絡めた彼が苦渋に顔を顰める。届かない願いに涙を浮かべた私は嗚咽を零した。

 二の腕の紅が肘を伝って葡萄酒のように床に落ちる。少しずつ水溜りが出来る様に引き攣った声が漏れた。