「レイニー様!」

「離しなさい! 人を呼ぶわよ! 私に何をさせようとしていたか知らないけど……」

「早く馬車に、お戻りください!」

「え……?」

「レイ……」

「おーい。お貴族様がいるぜぇ」

 品の無い声に顔を顰め振り仰げば、酒瓶片手に千鳥足を踏む初老の男がいた。伸ばしっぱなしの鬚。濁った眼。薄汚れた服。そして凄まじい悪臭に私は思わず口元を覆った。

「ひどい、においだわ……」

「おう、おう! いいなぁ、お貴族様はぁ、昼間っから、お買い物かい? こちとら仕事クビになって飲むしかねぇってのによぉ!」

 時折しゃくり上げながら男は距離を縮めてくる。酒瓶を傾ける度に少なくなる酒量。頬を赤らめ、すっかり酒に呑まれている男に恐怖が顔を出す。