「私が先を走ります。お二人はしっかり付いてきてください。
 フィンレイ、背後の敵は任せましたよ」

「ああ」

「私が何者で何が起こるのか。それは着けば分かります。貴方は自分のことを考えなさい」

 マリーの言葉に傍らを走っていたフィンの顔が曇る。走ることで精一杯の私に考える余裕などなかった。

 闘う人の波を縫いながら数多の死体に目を瞑る。追悼する余裕もない私は只管恐怖と戦っていた。



 再び刺されて死ぬかもしれない。

 今、隣にいるフィンが殺されてしまうかもしれない。

 だから文書を出すべきだと言ったのだ。

 書類の上でどうにかなれば、亡くなった者達だって命を落とさなかったかもしれないのに。



 頭の中でベルナールを責め立て、自らの浅はかさを悔いる。

 結局、私はただの姫でしかなく、何も分かってなどいなかった。景色と共に移ろいでいった民の顔を思い浮かべ、涙が光る死体に悔恨する。