「君は僕の名前なんて初めから知らない。ただの〝お花屋さん〟だったんだからね。

 僕はエレアノーラ様にレジスタンスをやめて欲しかった。せめて今世だけは静かに生涯を遂げて欲しかったから。悪いけど手紙の意味はそれだけだよ」

「前世……なんて本当にあるのか?」

 ヴィンス様の胡乱な視線が僕を絡めとる。それが普通の反応だと諦観していれば、掌に優しい温もりを感じた。

「あるわ。証人は私。それだけじゃいけない?」

「エレアノーラ嬢は、それを俺達に信じろ、と?」

 乾いた笑いを浮かべるベルナールを真摯に見つめ、彼女は僕の手をギュッと握る。

 まるで頼られているかのようだ。無意識なのか意識的なのか。それでも、ただただ嬉しい僕は手を握り返すことで精一杯だった。