前世の僕は花屋だった。容姿も、頭脳も何もかもが平凡な、ただの青年。取り柄といえば、花を美しく咲かせるくらいのものだ。

 そんな僕はシュプギーで唯一、城に卸すことができる店を営んでいた。

 王族御用達であることを知れば、皆さぞ儲かっているのだろうと口を揃える。しかし実はそうでも無かった。

 業績は上がらないし、男が手掛ける花を馬鹿にする人間は多い。それでも食い扶持に困るほどではなかった為、周りと比較すると生活水準は割と高かったように思う。

 リーリエ様と話をするのは業者として城を訪れた時のみ。花を愛していた彼女は僕を見つけると、ヒールの音を立てながら笑みを重ねていた。

 素朴なドレスに、紐で括っただけの髪。巷で流れている噂と相違点しかない彼女に、当時の僕は戸惑いを隠せなかった。

 それでも花一つで頬を緩めるリーリエ様を見ていると此方までつられてしまう。心を温めてくれる彼女に会うのを、前世の僕は楽しみにしていた。

 世話の仕方一つで花の開き方が変わることを教えれば、実直に向き合う彼女。そんなリーリエ様に花言葉を教えると、幾度となく反芻して「ロマンチックね」と零していた。