「俺は貴族に両親を殺されたんだ」

「突然どうしたの?」

「理由を話すべきだと思ったんだよ。秘密には秘密でのやりとりを」

「話したいなら聞いてさしあげるけど、別に話さなくても構わないわよ」

「じゃあ話したいから聞いて貰える? ずっと男のふりをしてるのもキツかったから」

「ドレスを着たいの?」

「いや、ひらひらした洋服は嫌いなんだ。でも俺が俺で在れる場所が……」

 言葉は最後まで紡がれない。それでもなんとなく分かってしまった。彼女は私に同じ匂いを感じたのだと。

 エレアノーラは一人。けれど魂は二つ在るようなものだ。確立した自己はなくとも、どうしても人格にぶれが生じてしまう。そこを嗅ぎ取ったのかもしれない。