胸が痛いというには語弊がある。

 身体の中心を這う痛みが気持ち悪い。渦巻いて、動きまわって、俺の涙腺を刺激した挙句、身体を乗っ取るのだ。

 その手はレイニーの髪を撫ぜたり、肌をなぞったりする。バレてしまえば、きっと咎められるに違いない。

 唇を、ものの数秒重ねた時を思って、俺は幾度も罪悪感を募らせた。

 禁断の果実が如く誘惑する唇。蠱惑的な薫り。吸い付くような柔肌。絹のように滑らかな金糸は花の香を思わせる。

 男は蝶のように美しい生き物ではない。蜘蛛のように全てを喰らいつくすほどには穢れた生物だ。

 そんな俺に隙ばかり見せるのだから、彼女は襲われても文句は言えない気がする。

 けれど、それをしてしまえば二度と戻れなくなってしまう。

 だから堪えた。一度、唇を重ねて、もう一度だけと己を甘やかした。けれども、麻薬にでも引き寄せられるような自身に逆らえず、俺はあと一度と懇願する。あとは言わずもがなだ。