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「ねぇ、貴女がエレアノーラ様?」

 ユアンに連れられ廊下を歩む。そうしていれば背に嫋やかな声が投げ掛けられた。

 勿論、首だけ振り返るなんてことはしない。ゆっくり時間を掛けて胸を相手方に向けるのだ。

 これは礼儀であり、作法であり、貴族としての矜持でもある。しかし、彼女の姿を見止めた瞬間。私は目を瞠った。

「まぁ、とてもお美しい方! ずっとお話してみたかったの。私、ヴィンセント様の妻でカタリーナと申します」

 にこにこと愛らしい微笑を携え、彼女は幼い所作で頭を下げる。

 ドレスの裾を持ち上げる仕草に品もなければ、歩き方にも教養があるとは思えなかった。