レイニー様は城へ趣き、王子とむつみ合っている最中だ。勿論〝表向きは〟という話だが。

 ここのところずっと朝帰りのレイニー様。当然、社交界では噂が巡り、彼女の悪評は鰻登りだった。

「エレアノーラ嬢の人気は凄まじいね。下の方にも噂が届くんだからさ」

「どうせ悪評だろ」

「うん。名門貴族の嫡男を掌で弄び、末とはいえ王子にも手を出すんだからね。そりゃ評判は最悪でしょ。既に二つ名……どころか呼び名が沢山。
 稀代の悪女、金髪のヘラ、イエローダリア、あとは悪の令嬢、なんてのもあったかな」

「おかしな話ですよね。〝ヘラ〟は結婚の神なのに」

「ロビン、いたのか」

 少年の声に慄き、赤いカーテンへ視線を向ける。そこには端正な顔に添ぐわないモップを片手に掲げるロビンがいた。