『竜己』

声と共に現れた人影は音を立てずに石の床に足を下ろす。


長い黒髪を結うこともせず背に流し、

髪から覗く瞳は自分と同じ不思議な光を漂わせた青色。

実体を持たない、この国を守護する龍神と呼ばれる存在。


「…龍貴様」

尊む意味を込めて龍貴(リュウキ)と皆から呼ばれている。


感情を現さない表情に張り詰めた空気を感じる。

目前に立った龍神は、何の前触れもなく本題を彼に突きつけた。


『国のため、生命をかける覚悟はありますか?』

「!?」

『明日、皆の目の前で、瀧に身を投げてください』

竜己の驚きなど意に介さぬように、淡々と告げる。


『それが、この国を護る、唯一の方法です』