竜己(タツミ)は神殿で龍神が現れるのを待っていた。


王城から瀧川を挟んで迎えの崖のに立つ神殿は、

人の行き来も少なく、静寂に包まれている。

聞こえてくるのは瀧の瀑音と流れる水音。


先程まで王城で事態をどう打開するのかを相談するため、

王や官吏が忙しく話し合いを続けていた。


『貴方にだけ、話がある。後で神殿に』


そう告げられて呼び出されたのが先刻。


静かな神殿にひとり佇んでいると、

争いがすぐそこまで迫ってきているとは信じられない。

しかし、確実に空気は緊張感をはらんだモノに

変化しつつあるのは感じている。


龍神の眼と呼ばれる特別な目を持って生まれ、

二十代半ばで神官となり務めを果たしてきた中で、

今までになく心が騒ぐのをじっと抑えていた。