意を決して飛び込んだ谷底。
 
 力が欲しかった。

 この国を護れる程の特別な力が。

 ただ、人には見えないモノが見えるだけではない、もっと大きな力を。

 願いと祈りを強く思いながら、落ちていく速さに瞳を閉じかけて時、水面で両手を広げた龍貴の姿が見えた。

 落ちてくる彼を受け止めるかのように。

 視線が合った時、一切の音と景色が消えた。

 優しく激しい龍貴の気に包まれ、不思議と安らぎを感じた。

 そして、直接、脳裏に聞こえる声。

『命を懸けても、この国を護りたいか?』

 幾度となく自問したその言葉に、返す言葉はひとつ。

「はい」

 その瞬間、魂を引き裂かれるような激しい衝動に襲われ、自分の中から放り出されたと感じて・・・

 気付いた時は水の上。

 滝の音と、水しぶきに包まれていた。

 その水辺に驚いた表情で自分を見上げている青年と眼が合った。

「…貴方は、精霊か……?」

 彼の問いに曖昧に笑った。

 街並みなど無いに等しい緑豊かなこの土地で、滝の流れだけはよく見知ったもの。

 目前の青年の瞳も、代々受け継がれてきた自らと同じ色彩の眼。

 一瞬で真実を悟った。

 国を護りたいと龍神の言葉に答えた時、魂の精神は遥か昔に飛ばされた。

 この国の始まりの時代に。