弟の弱い腕を振り切って駆け寄ろうとした鳳珠は、

今度は力強い腕に捕らえられた。

「放して」

「ダメだ」

答えたのは父王のもの。


「竜己様がー」

「竜己は戻ってくる」

父の言葉にはっと顔を上げる。


そう言った蓮雅の表情も色を無くしている。

滝に身を投げるように竜己に命じたが、

生贄や犠牲になれとは龍神は言わなかった。

どうすればこの国を護れるのか、

その答えが竜己の死ひとつで叶うはずもない。


「龍貴を信じよう」

その言葉は祈りにも似た、強い願いだ。