「竜己様」

共にと前へ出ようとした鳳珠の腕を掴んだのはのだ幼い弟の凰璃(おうり)。

不安を現した表情に、それを振りほどくことが出来ず、

竜己の後姿を眺めることしかできない。


昨夜はあんなに近くに彼の存在を感じることができたのに。

躰の奥に残る痛みは、彼を受け入れた証。

胸の奥で慟哭する痛みは、彼を失うことの悲しみ。

あの人は、身を捧げるであろう……龍神に。


姿の見えない竜己を探して訪れた神殿の奥で、

聞いてしまった龍貴と竜己の会話。

『私も、後を追います』

思わず口にした言葉は、本心だった。


民の血を流さぬようにと父王が執った策を聞いて、

竜己の姿を探してしまったのも、ずっと彼を想っていたからだ。

争わず王城へ導いた後、敵将は手っ取り早く見せしめとして治権者の粛清を行うだろう。


その役割を神官の竜己に。


はっきりとそう告げる龍神の声を聞いてしまったら、神殿へ向かわずにはいられなかった。