「こっちに来て」

ゆっくり美桜は蓮と手をつないで歩く。すれ違う人に見られて恥ずかしい。でも、恥ずかしいから嫌だと言うことはできない。

二人は少し歩いて、今は使われていない旧校舎に来た。

「ここは自由に生徒が使えるんだ」

蓮が二階にある音楽室の扉を開ける。

「わあ……!」

もう使われてはいないとは思えないほど、音楽室はきれいだ。

蓮はピアノの椅子に、美桜はその近くの椅子に座った。

「嘘ついてごめん!」

蓮がブレザーのポケットからメモ帳を取り出し、美桜の目を見て言った。

「僕が一番好きなことは、これなんだ」

蓮がページをめくると、そこには詩が書いてある。


流れる時間のスピードは
人よりもずっとずっと遅くて
だけど、それは仕方のないこと
隠してしまった自分への罰


「これって……」

その詩は美桜の心に突き刺さっていく。自分も同じだからだ。

「その……自分で作った。僕は……作詞作曲が好きなんだ!」

「えっ!?」

美桜は驚いてさっきまで感じていた恐怖を忘れてしまった。