〜翔の思い〜

美桜への気持ちを諦めたあの日、音楽室でずっと俺は泣き続けた。

泣くなんて本当に久しぶりだった。美桜と出会うまでは、恋どころかほとんどの感情を失っていた。

母さんが死んで、全ての温もりや愛を失った。自分に与えられたのは、耳を塞ぎたくなるような暴言や暴力だった。

そして、心は凍り付いてしまった。

美桜への想いを捨てたら、また感情を失ってしまうのではないかと思った。そう思うと怖かったが、同時に悲しまなくていいと思ってしまった。しかし、心は俺の中にちゃんとあった。消えなかった。だから、涙が止まらない。

ずっと永遠のように泣き続けていたが、しばらくすると少し落ち着いた。

帰って温かい飲み物でも飲もう。そう思い、かばんを手に立ち上がった。

道を歩いていると、幸せそうな男女の姿に目を塞ぎたくなる。どのカップルも笑顔で、頰を赤らめていた。

苦しくて、また泣いてしまいそうになる。自分はいつからこんなに泣き虫になったのだろう?前までは何をされても悲しいとすら思わなかったのに…。

「ほら!しっかりしなさい!ちゃんと気持ちを言えたんだから、がんばったよ!」

俺の耳に、泣き声と励ます声が聞こえた。