「大丈夫だよ、安心して」

泣きじゃくる美桜を蓮が優しく抱きしめた。蓮の体に美桜も腕を回す。

「……美桜……」

翔の呟きは小さすぎて、蓮にも美桜にも誰にも届かなかった。

胸が苦しくなる。思い出すのは、美桜に告白したあの日のこと。同じように美桜を抱きしめた時、美桜は今のように腕を回してくれなかった。逆に「放して」と言った。

ドクン、ドクンと心臓の音がうるさい。

苦しくなっていく翔の目の前で、二人は抱きしめ合いまるでカップルのようだ。

「大丈夫だよ…。僕がいるから」

蓮が美桜に優しく言いながら、ゆっくりと歌う。


夜空に舞い上がる花火
それを見つめて誰を想う?
消えてほしくない宝物
輝きは永遠だから


ピアノはないのでアカペラだ。翔は耳を塞ぎたかったが、塞げなかった。固まってしまった体で大嫌いな蓮の歌を聴く。美桜を泣かせた罰なのか、と翔は思った。


あの人が教えてくれたこと
それは言葉に魔法をかける方法
こんな僕の歌を
君は微笑んで聴いてくれる
あの日、大切な人を失った日
もうこれ以上失いたくない
まだまだ幼いけれど……
遠い国で歌ってるあの人に
この歌が届くように
目の前にいる君に
この歌が届くように
君のためならいつだって歌うよ
心に打ち上がる花火


歌い終わると、美桜は翔が見たことのない笑顔を蓮に向けた。それは、恋する女の子の笑顔ーーー。