椿はお母さんとの思い出があまりない。

お母さんは海外出張が多く一年中日本に帰って来なかった年もある。なので、絵本を読んでくれるのも、ご飯を作ってくれるのも、遊園地や水族館に遊びに連れて行ってくれるのも全部お父さんだった。

お父さんは体があまり丈夫ではなかった。お父さんが死んだ時におじいちゃん達に聞かされたが、持病もあったらしい。

その持病が悪化してお父さんは春休み中に伝言へと旅立った。

悲しくて、苦しかった。消えてしまいたかった。

お父さんが死んでしばらくしてから、出張先からお母さんが帰ってきた。その時椿は子どものように泣いた。一人ぼっちだった家に人がいることが嬉しい。このまま時間が止まってくれたら……、そう何度も思った。

しかし、お母さんは帰ってきてすぐにまた出張に行ってしまった。

ーーーまた椿は家に一人でいることになってしまった。