「あまのはごろも?どういうお話なの?」


興味深々な彼の様子に、私が嬉しくなってしまう。

だって、今まで誰にも昔話が好きだなんて言ったことないし、こんな風に話したこともない。
まあ、私が隠してたからなんだけど…。

……だってさ、女子大生が日本の昔話大好きとかおかしいよね。
普通はこう…ライトノベルとかかな?


──でも、彼は日本人じゃないし。
それにきっと、彼は留学生別科。私と学科が違うのなら、会うのも今日限りだ。


「天女ってわかりますか?」


「てんにょ?」


きょとんと目を瞬かせ、私の言った言葉を繰り返してくる青年。
知らなさそうだな。


「天に住んでいる綺麗な女の人のことです」


そう説明すると、彼はへぇ、とうなずいた。


「織姫とかかぐや姫とかみたいなもの?」


織姫はまだしも、かぐや姫は月な気がする…。

でもまぁ、そんなかんじだろう。


「はい。その天女は、天の羽衣で空を飛ぶんですよ」


「おー!Fantastic!」


子供のような無邪気な反応。

キラキラしたスカイブルーの瞳は、よりいっそうキラキラしているように見える。


「でもその羽衣を、若い男の人が隠してしまうんです」


私のその言葉に、青年はわかりやすく悲しそうな顔をした。


「Why?それじゃあ天女が帰れないよね?」


「男の人は、天女に一目惚れしてしまったんです。天の羽衣がなければ彼女は帰れない、つまりずっと一緒に暮らせる!みたいな」


男の人も、悪いことをしてるってわかっている。

でも好きだから、手放したくなくて。

返そうと思っても、あと少しだけ、と考えてしまって。


「それでも、男の人は天女にすごく優しかった。だから彼女は、彼に惹かれていくんです。彼が天の羽衣を隠しているとも知らずに」


徐々に通じ合う二人の気持ち。

幸せで、穏やかな暮らし。


「…それで、どうなるの?」


青年の青い瞳が、真剣に私を見てきた。

私は、にこりと笑う。


「ある日、天女にすべてがばれて、彼女は天に帰ってしまいます。物語はそこで終わり。バッドエンドです」


彼女を手に入れたかったためについた嘘。

一時は彼女を手に入れることができても、その嘘のせいですべてが壊れてしまう。


そんな、悲しい結末だ。