「何故、泣いている?」

突然、声がした。

私が見上げると、目の前に変な服を着た男の

人が立っている。

あとで調べたところによると、男の人が着て

いた服は直衣(のうし)と言って平安時代の

貴族の普段着みたいなものらしい。

でも、当時の私にとっては、ダボダボの白い

ダサい服だった。

ただ、そんなことを言う余裕は勿論ない。

「助けて…」

「麓の集落の子か?」

「…ふもと?…しゅうらく?」

「…この下の村に住んでいる子か?」

男の人は少々呆れた顔をした後、言葉を選ぶ

様に綺麗な声で私に質問した。

顔は涙で視界が滲んできちんと見えない。

でも、彼がどんな表情なのかは不思議とわか

った。

「…町に住んでるの。」

「マチ?」

今度は男の人が怪訝な顔をする番だった。