無難に一日の仕事を終え、電車に揺られる。最寄り駅でバスに乗り換えてアパートまで10分。それでも片道の通勤時間は40分少々だ。

かかっても45分以内の立地条件で探した物件は、陶史郎さんに言わせると安全性がザルすぎるとか何とか。戸締りも十分確認してるし、洗濯物だって女の子らしい色が少ない。泥棒に見向きもされない自信はある。

『僕の樹はどこをどう見ても女の子だからね』

視力は裸眼で2.0だと陶史郎さんに先を越された。だとしたら違うのは“味覚”かな・・・。

ふと、そんなことに思いを巡らせてる間にバスが停留所に到着した。ICカードで料金を支払い、通りを渡って住宅街を歩き出す。

見えてきたクリーム色の四角い建物は築15年物。2階建ての8世帯で202号室は生憎、角部屋じゃなかった。贅沢は言わない。