上司から容疑者である彼女と話してよい、とされた時間は30分程。事情聴取にしては短すぎる時間。それでも私は二階堂菫子から話を聞かねばならない。ボールペンをノックし、花を食べ続けている彼女に向き直った。

「では、早速質問をさせて頂きたいのですが」
「わかりました。ええ、大丈夫ですとも。お花食べながらでも大丈夫ですか?」
「構いません」
「ありがとうございます。ああ美味しい」

許可がおりたからか、彼女は更に遠慮なく、花瓶ごと抱えてひとつひとつの花弁を毟りはじめた。美少女が花を食べている、というのはとっても絵になるのだが間違いなくおかしい。咳払いをし、気持ちを切り替える。

「ええと、それでは…南谷すずかさん。お知り合いですよね」

それを聞くと二階堂菫子は手を止め、少し考えてから口を開いた。

「すずか?すずかですか、ええ、あのちいさなすずか。わかりますよ。友達です親友です大切です。可愛いですよね、ちいさなすずか」

ね、と首を傾げ笑った彼女に笑みを返す。それに満足したのか、彼女は嬉しそうに話し出した。

「すずかって、可愛いですよね。可愛いから、わたし、ずうっと不思議だったんです。何でこんなに可愛いちいさな子が何事もなく過ごせてたのか不思議で不思議で不思議で。…あれ、すずか、今どうしているんですか?息とか吸ってますか?」

喋っているうちに少しずつ声のトーンが落ちていった。それはまるで、妹の心配をする姉のようで『友達』といった雰囲気ではない。私は暫く返事に躊躇い、たっぷり10秒ほどかけてから、乾いた唇を舐めて言葉を返した。言葉尻が震える。

「…南谷さんなら、今も元気に学校に通っておられます」

二階堂菫子は目を細め、満足そうに笑った。

「そう、そうですね。すずかはまだ小学生、わたしは高校生。わたしだけ大人なんです。だからすずかの面倒はわたしがみるんです。可愛いすずか。可愛いです。目に入れてもいいくらい」

思わぬ言葉にひゅっ、と息を吸い込む。冷えた手で手帳に走り書きのメモをした。

『被害者を小学生だと思い込んでいる様子あり』