しばらくいくといつもの酒屋が見えてきた。 辺りを見渡してから店のドアを開けた。

 カランカラン
 親仁さんが昔ヴェネチアで買ってきた鈴が鳴る。これで聴くのは最後か・・・。

「あら、イーグレットじゃない。まだ開店してないわよ。」

 初老の女将がテーブルを拭きながら言った。

「いや、実は・・・・」
「ほら、風邪引くわよ。」
 そう言って、手に持っていた布巾でローヴを拭く。
「それ、テーブル拭いてただろっ」
 そう言うと手を止め、片方の手を口の辺りに持っていった。
「あら、いけない。ごめんなさいね」

 女将はそそくさとカウンターの方に逃げた。

「おう、イーグレットじゃねぇか。どうした?」