言いたいことはいっぱいある。けど、ここはこちらが折れるしかないみたいだ…


私は観念し、今出せるありったけの勇気を振り絞り、恥ずかしさを押し退け…

「…隼人さん。」

言えた!

ぼそっと言った感は否めないけど、言えましたよ!?

どうお!?これで満足でしょ!?



だけど…



「もう一回。」


秋庭さんは満足気に、嬉しそうな笑みを浮かべ催促してくる。


「言ったじゃないですか!」

「声が小さかった。」


確かに小さかったけど…

もう一度言わせたい理由が、本当は声の小ささじゃないのは、秋庭さんの顔を見れば明らかだ。
それくらいなら私にだって分かる。


「もうー、いい加減にして下さい。」


笑顔の秋庭さんの胸板を小突けば、アハハッと笑い声を漏らし、「悪かった。」と腰に回していた手が私の頭をあやすようにポンポンと撫でる。

「機嫌直せって。」

解放された私は秋庭さんからトレイを奪いすたすたと歩き出したが、ピタリと止まり後ろを追ってくる彼を振り替えった。

「別に、"秋庭さん"、に怒ってませんから。」


業と"秋庭さん"と強調して、少しばかりの意地悪をしてやりたくもなる。

それに…

名前を呼ばれて嬉しそうに笑った秋庭さんを見て、頑張って言えるようになりたいな…と思ったことも絶対に言わない!と固く誓い、私はまた前を向いて歩き出した。