「ふぁっ…」

また変な声が出てしまう。

「ここ、弱いんだ。」

ニヤリと笑う秋庭さんは、この状況をかなり楽しんでいるようだが、やられてる本人からすればたまったものではない。

「もう、止めて下さい…」

私のお願いに、「そうだな~」と業とらしく考える仕草をしたかと思えば、顔を近づけにこりと笑う。


「今一回呼んでくれるなら考え直してもいいかなー」


「…っ!」


彼の笑顔に私は、やられた…と思った。

妥協案に見えて、一連の流れはこのためだったのだ。

完全にハメられた。


「今ですか…」

「今。」

「………」

「言うまで離さないから。」

まるで、ナイフを喉元に当てがい脅迫するかのように、秋庭さんは腰に回す腕に少し力を込めた。

「………」

「そろそろ休憩時間終わるんだろ?」

何も言えないでいれば、今度は急所にナイフが当てられる。


秋庭さんは良く分かっていると思う。
私が仕事で何を大事にしているか。
厳密に言えばいくつかあるが、その筆頭にくるもの…
それは時間だ。
特に遅刻は厳禁。

くっ…

私は歯を噛み締め、恨めしげに秋庭さんを見上げる。

「卑怯ですよ…」

「ヒロが頑固だからだろ。」

秋庭さんの飄々とした態度に、私の眉間の皺が深くなる。