「あっ、先輩、前から言おうと思ってたんですけど~」


今度は何?


「先輩が、たー君に振られたのは私のせいじゃないですからね。先輩に魅力がなかったんですよ。」


「‼」



その言葉に、私は一瞬固まった。



「たー君が、婚約してた先輩よりも魅力的な私を好きになっちゃった、それだけなんですから~
私の事恨むのはお門違いですよ。」



高橋さんの軽く握った手は口にあてられているが、顔に滲み出た悪意は隠せていない。


ニヤリと上がった口角に、勝ち誇った目…


きっと、隠すつもりもないのだろう。



胸の奥が、ズシンと重くなるのを感じた。


本当、嫌な奴だ…


貴久にも高橋さんにも、これまでずっと会いたくなかった。
だけど、秋庭さんに出会って、仮で付き合うようになって、二人の事は以前ほど気にならなくなった。

けど、こうして業と婚約破棄の話題を出されて敵意を向けられれば、胸が痛まないはずはない。



「あっ、迎えが来たので失礼しますね。
先輩、精々ホストさんにかまってもらって下さい。
じゃ、お疲れ様でした~」



高橋さんは自分の言いたいことだけ言って、去って行った。



高橋さん、何で声掛けて来たんだろ?

ただ、嫌み言いに来ただけ?



去っていく彼女の背中を見つめながら、色々考えてしまう。
今まで絡んでこなかっただけに、余計に気になってしまうのだろう。

けど、今日の仕事はまだ終わっていない。
考え過ぎてバイトで変なミスもしたくないし、彼女のことは一旦置いておこうと気持ちを無理矢理切り替え、ジュリエットへ向かうため私は駅へ歩き出した。