「あ、あの!ヒロさん!何かお礼させて下さい。」


階段に足を向けていた私は、立ち止まらず顔だけ振り返った。


「別にお礼なんていいよ。気にしないで。」


「それじゃあ、俺の気がすみません!」


「本当に大丈夫だから。もうバス来ちゃうから行かないと、じゃあね。」


階段を駆け下り、振り返らずにバス停へと急いだ。






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逃げるように会社に来てしまったけど、雪斗君、あれで諦めてくれたよね?


一日ファイル整理をしながら、朝の出来事を思い返しては、もっと良い対応があったのではないかと考えてしまう。


『俺の気がすみません!』って言ってたしなー

でも話してる時間もなかったしな~

あれだけ言ったんだから大丈夫だと思うけど…

万が一諦めきれてなかったにしても、会わなきゃ良いんだよね。

秋庭さんのこともあるし、会わないようにしないと。



「あれ?」

この書類、このファイルじゃないよね。

ファイルから抜き取った書類を持ち、私は膨大な数のファイルが仕舞われた棚に向かった。