真由美と、西宮は兵庫へ帰ってきた。

山道に馴れたのか、

有馬からの道のりが近く感じられ、

予定した時間より、早く到着した。



屋敷に戻って、

お舘さまの元へ挨拶に向かう。



港町の賑かさが、潮風が、

二人を解放的な気分にさせる。



真由美は自然と笑顔になり、

「筋肉痛でもう無理~」と言う回数が減ったのを、

西宮に指摘され二人で笑い転げていた。



秀継は西宮と真由美が

仲睦まじくしているのを遠目に見ていた。



剣術一筋だった西宮は、

あのように笑うのか?と、驚きもしていた。

真由美は、どうなのだ。

西宮のことを好いているのだろうか?



有馬での噂は耳にしていた。

聞きたくなくても、入ってきていた



二人が戻ってくるまで、

噂を訝かしみ、

怖くて確認できずにいた。

自分でも驚くほど心の奥深く、

繊細な部分が締め付けられ、悲鳴を上げていた。



あやは、秀継に話しかけても全く相手にされず、

心ここにあらずと、

上の空の秀継の様子を見ていた。



女の直感で、真由美が原因だと感じとっていた。

有馬から戻ってきたあの女は、何者?

真由美が一人になるのを待って、話しかけた。



「ご挨拶が遅れましたが、

瀬戸内海を制圧する因島水軍惣領、

御坊義久が娘、あやと申します。



お舘様との婚儀を進めたいと、

父が申してまして。

私も、こちらでお世話になりとうございます。

そして、近いうちに

奥方様のいらっしゃらないお舘様と、

祝言を挙げて夫婦になりたいと思います。

お舘様のお世継ぎを産み、

櫻正宗の皆さまのお役にたちたいと思っています。

真由美殿、どうぞ私に力を貸してくださいね!」



悪びれた様子もなく、

力を貸すのが当たり前のように

直球ストレートな物言いに、

真由美は驚いた。



そして、ショックを受けていた。



あなたはどう?

役にたつ存在なの?と、問われた気がした。



あやの若さや、強力な後ろ盾や、

大胆不適な強さには到底かなわない。

私には何もない。

なにも持っていない。



お舘さまの表情が

固く感じられたのは気のせい?

そっけないくらい、距離を感じた。

今までこんなことはなかった。

私がいない間に何かあったの?

あやさんとの話が進んでいるから?

気に触ることしたのかな?わたし。



元気のない真由美の姿が庭に見え隠れし、

西宮は気になっていた。



真由美の周りをうろうろするのも、

有馬と違い街では気がひけたが、

屋敷内は安全だと思い直した。