港町に戻った秀継は、

御坊義久と「あや」親子を、

丁重にもてなすよう屋敷の者に命じた。



一人で考えるため、頭を冷やすため、

須磨に行ったはずなのに、

考えるのは真由美のことだった。

戻って一番に、

顔を見たいと思っていたが、

屋敷の者は真由美が有馬に行っているという。



そうなのか…寂しい気持ちが募つのる。



その夜、秀継は御坊義久と時間を忘れて語り合い、

すっかり意気投合した。



瀬戸内海における御坊の力は絶大で、

櫻正宗にとって、のど元から手が出るほど、

魅力的な制海権を持った一族だと理解した。



御坊義久も秀継が自分の息子として、

跡を継ぐにふさわしい器を持つ男だと認めた。

また、噂以上に兵庫の港町は強固で豊かで、

目を見張るばかりの繁栄に驚いていた。



「あや」と夫婦になっても、ならなくても、

この秀継という人材はまことに得難えがたいと、

手を組むにふさわしい相手だと、改めて思い始めていた。



同じ頃、

光明院、松姫、あやは別室で語り合っていた。

光明院と松姫はあやの天真爛漫さに驚き、

厚かましさに眉をひそめていた。



言葉の端々から、

秀継を篭絡させる自信のほどが伝わってくるが、

甥の秀継は、兄の秀継はそれほど愚かではないと、

話せば話すほどに、

二人の想いは確信へと変わっていった。



光明院は幼い時から秀継を見てきた。

秀継が人質となった幼少時、

親を亡くし家督を継いだ時、

光明院が夫を亡くした時、

いつも唇をかみしめ、

目つきだけがぎらぎらと、

泣くことも喚くこともせず、

ただじっと耐えていた姿を。



それが真由美が現れてから、秀継は変わった。

どこがどう変わったのか問われると困ってしまうのだが、

全身から今まで感じたことのない生気がみなぎり、

同時に優しい雰囲気を醸し出していた。



いつも張り詰めていた神経が、

安らぐ場所を見つけたかのような。

それはきっと、真由美殿のお蔭なのだと思っていた。

光明院は「あや」では変わりは務まらない。と確信していた。



松姫も「あや」に人間の厭らしい部分を見ていた。

自分でたいした努力もせずに、

他人の力や財力になびき磁石のように引っ付く者は、

松姫が最も嫌いな人間だ。



光明院の夫は、

松姫をわが子のように可愛がってくれたが、

敵に騙され、罠にはめられ、

あっけなく殺されてしまった。

松姫が最も忌み嫌う種類の人間に。



松姫の幼い頃の体験は、

人間の本質を見抜く力を育んだのだろう。

真由美は「あや」とは次元が違うと思った。